あなたは2016年4月12日より
人目の訪問者です。
ようこそ、穂の国富士見へ
安倍政権は、新成長戦略と骨太方針で法人税減税を打ち出していますが、タックスヘイブンを活用することによって世界第2位となる莫大な税逃れをしている日本の大企業からまともな税金をきちんと払ってもらうことの方を何よりも優先すべきだと思います。東証に上場している上位50社のうち45社がタックスヘイブンを活用し、ケイマン諸島だけの活用に限っても、日本の大企業は55兆円で、アメリカに次いで世界第2位の規模です。つづく、イギリス23兆円、フランス20兆円、ドイツ17兆円で、後に続く各国を合わせた額に相当するぐらい日本の大企業はタックスヘイブンを活用し税逃れをしているのです。私たち庶民は、消費税増税はじめ各種税金から逃れようもないのに、どうして大企業だけが平然と税逃れを行うことができるのでしょうか? 私、このタックスヘイブンの問題について、政治経済研究所理事の合田寛さんにインタビューしました。3時間に及ぶインタビューでしたので前半部分をまず紹介します。
世界各地で莫大な利益を上げている多国籍企業と富裕層が巨額の「税逃れ」をしています。スターバックスやアップル社など名だたる大企業の「税逃れ」が明らかになり、「私はスタバよりたくさん納税した!」とイギリスでは市民が怒りを爆発させています。そして典型的なタックスヘイブンとして知られるケイマン諸島に日本はイギリスよりも巨額の、アメリカに次ぐ世界で2番目の規模の投資を行っています。もっとも担税力のある多国籍企業と富裕層には「税逃れ」を許しておいて、その結果でもある税収不足と財政難などを理由に、庶民には消費税増税と社会保障削減を押しつけたり、国家公務員労働者には違法な大幅賃下げを押しつけるなど、著しく公平性を欠く事態が進行しています。この「税逃れ」の舞台となっているタックスヘイブンの問題について研究している合田寛政治経済研究所理事にお話をうかがいました。
――タックスヘイブンの問題が、日本のマスコミでも取り上げられるようになってきましたが、この背景には何があるのでしょうか。
いま世界的にタックスヘイブンの問題に注目が集まっています。たとえば、アップル社やグーグル社、アマゾン社、マイクロソフト社など、そうそうたる一流の多国籍企業がタックスヘイブンを利用して「税逃れ」を行っていることが、各国のマスコミでも大きく取り上げられています。
日本でも、タックスヘイブンの問題が最近になってようやく新聞やテレビでも報道され始めましたが、イギリスやアメリカでは早くから市民運動がタックスヘイブンの問題を告発していて、最近ではそれをイギリスの「ガーディアン」や「フィナンシャルタイムス」、アメリカの「ニューヨークタイムス」などの新聞が取り上げるようになっていました。
特に問題になったのがイギリスのスターバックスです。スターバックスは、本社はアメリカのシアトルにありますが、世界30カ国に事業展開している大手のコーヒー専門店で、イギリスにも700店舗以上あります。このスターバックスが昨年末、イギリスの上院決算委員会に呼ばれ、アマゾンなど3社の代表と共に聴聞を受け、そこでいろいろな問題点が明らかになりました。
たとえば、過去15年間のうち14年間、スターバックスは損失を出していたというのです。どうやって損失を出していたかというと、たとえばコーヒー豆をスイスの子会社から帳簿上、高値で買い取った形をとって、イギリスにおける利益を減らしたという事実が判明しています。また、オランダにある欧州本社にブランドなどの知的財産権を移し、そこに巨額のロイヤリティを支払うことによってイギリスでの利益を減らすなど、いろいろな形で、イギリスでは納税義務を免れるようにしていたことが明らかになりました。
こうした事実を知った市民は、スターバックスの店舗の前に座り込んで「私はスタバよりたくさん納税した!」と、無税だったスターバックスへの怒りを爆発させました。結局、スターバックスは今後2年間2,000万ポンド支払うことをしぶしぶ認めて事態を収拾しましたが、根本的な「税逃れ」の構造はまったくあらたまっていません。
また、今年になってアップル社がアメリカ議会で問題になっています。アップル社はタックスヘイブンを利用した悪質な「税逃れ」のモデルとして上院小委員会が今年5月にヒアリングをしています。その中で、アメリカの法人税率は35%であるのに、アップル社は、実質2%以下の税率だったことなど、驚くべき事実が明らかになりました。
アップル社の本社はカリフォルニア州にありますが、アイルランドに3つの子会社を持っています。アメリカとアイルランドでは課税に対する考え方が異なっており、アメリカでは会社の設立地がどこにあるかによって課税しますが、アイルランドでは会社をコントロールする拠点がどこにあるかによって課税しています。この課税原則の違いを巧妙に利用してアイルランドからもアメリカからも課税されないという「税逃れ」を行っていました。また、利益の6割を占める海外での販売による利益はすべてアイルランド子会社に集中し、その利益はロイヤリティ支払いによってオランダを通り抜け、タックスヘイブンであるバミューダに流していました。この「税逃れ」の構造を「ダッチサンドウィッチ」というのですが、オランダは単に経由するだけという意味です。こうしてスターバックスやアップルなど有名な企業の「税逃れ」のあまりにもひどい実態が明らかになり、タックスヘイブンがクローズアップされるようになってきたわけです。
問題は、これが単にスターバックスやアップルだけに限らないということです。アメリカを例にとれば、タックスヘイブンを使っていない多国籍企業はほとんどないというほど、どっぷりその中に浸かっています。
アメリカの消費者団体(pirg)が2013年7月に発表した調査(「Offshore Shell Game」)によると、米巨大企業トップ100社のうち82社が、タックスヘイブンに2,686社の子会社を持っています。そして、トップ15社だけで859の子会社を持っていて、全体の3分の1を占めています。そのトップはバンク・オブ・アメリカで、タックスヘイブンに316社の子会社、2位のモルガンスタンレーは299社、3位の製薬会社のファイザーは174の子会社を持っています。これらすべては5年間納税ゼロという状況です。
トップ100社がタックスヘイブンに保有しているお金は、1.2兆ドルに達しています。これもトップ3をあげると、ジェネラルエレクトリックが約1,080億ドルでトップ。アップルは2位で826億ドル。ファイザーは金額の面でも730億ドルで3位に入っています。つまり、巨大企業は、巨額のお金をタックスヘイブンに隠しているのです。
また同じ調査によると、アメリカの多国籍企業が1999年にタックスヘイブンのバミューダであげた利益は、同国の経済規模の2.6倍に相当していました。それから9年後の2008年には、バミューダの経済規模の10倍へと急速に増えています。
2008年にアメリカの多国籍企業は海外利益の43%をバミューダなど5つのタックスヘイブンであげていることになっているのですが、これらの地域には海外労働者の4%しか働いていませんし、海外投資も7%しか占めていません。これがタックスヘイブンの最大の特徴です。帳簿上は事業利益の大半をタックスヘイブンで上げた形になっているのに、実際そこではわずか4%の労働者しか働いていないのです。
これとは逆に同じ多国籍企業が、オーストラリアやカナダ、イギリス、ドイツ、メキシコなど実際に事業を行っているところでは、帳簿上は海外利益の14%しか上げていないのに、それらの場所には40%の労働者が実際にそこで生産していて、34%も海外投資がされています。これらの事実は多国籍企業によるタックスヘイブン悪用の一端を示すものです。
――日本におけるタックスヘイブン問題の実態はどうなっているのでしょうか?
日本のデータはあまり新聞報道されませんが、最近、『しんぶん赤旗』(2013年8月25日付)が報道したところによると、日本の大企業も例外ではなく、東証に上場している時価総額の上位50社のうち45社――つまり上位50社のほとんどが子会社をタックスヘイブンに持っており、子会社数は354にのぼり、その資本金の総額は8.7兆円にもなるということです。これは具体的に有価証券報告書を調べた結果の数字で、そのベスト5を見ると、みずほフィイナンシャルグループのタックスヘイブン子会社が45社でトップ。続いてソニーが34社、三井住友フィナンシャルグループが27社、三井物産27社、三菱商事24社となっていて、銀行や商社が多くなっています。特に三井住友フィナンシャルグループはケイマン諸島だけで18の子会社を持っていて、その資本金は3兆円にものぼっています。国が出資しているNTTやJTも多額の資産をタックスヘイブンに投じているという事実が明らかになっています。
ケイマン諸島だけに限っても、日本の投資残高は55兆円に達していて、アメリカに次いで2位になっています。続いて、イギリス23兆円、フランス20兆円、ドイツ17兆円で、後に続く各国を合わせた額に相当するぐらい日本はタックスヘイブンを利用しているということがこの調査で明らかになっています。
――そうした実態があるわけですが、そもそもタックスヘイブンとはどういうものなのでしょうか?
「タックスヘイブン」という言葉を翻訳すると「租税回避地」となります。しかし、じつはタックスヘイブン=租税回避地の明確な定義は国際的にまだ確定したものはありません。
タックスヘイブンについて一番早い段階で判断基準を示したのがOECD(経済協力開発機構)です。1998年にOECDは、「有害な税の競争」という報告書を出し、タックスヘイブンの次の4つの指標を示しました。
(1)まったく税を課さないか、名目的な税しか課さない。――これがタックスヘイブンの最大の特徴です。
(2)情報公開を妨害する法制がある。――たとえばスイスや他のタックスヘイブンの国は秘密保護法を持っています。法律によって情報を制限しているわけです。
(3)透明性が欠如している。――要するに情報がないということですが、たとえば持ち主がはっきりしない会社や、匿名の預金や基金などがそれに当たります。
(4)企業などの実質的な活動が行われていることを要求しない。――つまり何もやっていないペーパーカンパニーであっても設立が認められるということです。
OECDは以上の4つの指標を出していたのですが、その後、徐々に基準が緩められ、現在は(2)と(3)だけに絞られています。つまり、情報公開と透明性だけをタックスヘイブンの基準にしたのです。
私は、タックスヘイブンの指標として次の3つが大事だと考えています。
1つは無税、あるいは極めて低い税率であること。これはタックスヘイブンのもともとの基準ですね。
2つめは、法的な規制がまったくないか、極めて緩いということです。これは税だけでなく、金融規制や法人設立規制など、簡単に法人が設立できるような法制度になっている国も指します。また、オフショアといいますが、1つの国の中にありながらその国の法律とは別の緩い法律体系が適用されているところもあります。これはケイマン島のような小さな島だけでなく、法律上の地域なので、ニューヨークやロンドンなど先進国の中においてもどこにでもタックスヘイブンができることを示すものです。
そして3つめは、透明性の欠如です。たとえば法人や個人の真の所有者が隠されている、名義上の名前になっていて誰のものか分からない、誰の会社か分からない、というように秘密が守られてしまっているということから、守秘法域と呼ばれます。秘密保護法などによって情報が隠されていることがタックスヘイブンの大きな特徴です。
――実際にタックスヘイブンはどこにあるのでしょうか?
▼図表1は、私が作成したものです。たくさんあるのでグループごとに見てみましょう。
まずヨーロッパのタックスヘイブンは、1つはロンドンのシティが最も重要な役割を果たしていますが、その他スイスやルクセンブルグ、オーストリアなどOECD加盟国がかなり入っていることが特徴です。
またアメリカを中心とするタックスヘイブンは、ニューヨークのウォールストリートを中心にデラウエアやネバダなどタックスヘイブンの州がいくつかあります。それに加えてカリブ海の周辺ですね。ここはイギリス系統のタックスヘイブンが多いのですが、アメリカの裏庭なのでアメリカ系統のものも多くあります。またアメリカ系統のものは太平洋やマーシャル諸島、アジアにもあります。その他にも、バーレーンなど中東にもありますし、アフリカやモロッコ、モーリシャスなどにもいくつかあるということで、つまりタックスヘイブンは世界中にあるということですね。
世界のタックスヘイブンは大きく3つのグループに分けられ、重層的なネットワークを構築しています。1つはイギリス系統のタックスヘイブンです。このグループは、シティを中心としたクモの巣構造になっています。クモの巣構造の中心部分に王室属領という、国の領土というより王室の属領があり、それがマン島とジャージーとガーンジーです。地理的にはマン島はアイルランドとイギリスの間くらいにあり、ジャージーとガーンジーはフランスとの間のチャンネル諸島にあります。この3つが王室属領です。それから大英帝国時代からの海外領土があります。それはケイマン諸島やバミューダ、英領ヴァージン諸島など14の海外領土からなっています。これに加えて、独立国ではあるけれどイギリスとの深いつながりがある国――たとえば香港、シンガポール、バハマ、ドバイ、アイルランドなどの国々がシティを中心としたタックスヘイブンのクモの巣構造の外周を形成しています。タックスヘイブンはこうした重層的な構造になっているのです。
2つめのグループはアメリカ系統のタックスヘイブンです。ニューヨークを中心としたタックスヘイブンで、これも大きく見ると3重構造になっています。まず真ん中にニューヨークがあり、次に、デラウエア、フロリダ、ワイオミング、ネバダなどの州のタックスヘイブンがあります。そして海外サテライトとして米領ヴァージンやマーシャル諸島、リベリア、パナマがあるという3重構造になっています。
3つめはヨーロッパのグループで、スイス、ルクセンブルグ、オランダ、オーストリア、ベルギーなどです。
――実際のタックスヘイブンはどのようになっているのでしょうか?
それではケイマン諸島の実態を見てみましょう。ケイマン諸島はキューバの南にあるイギリス領の小さな島で、1503年、コロンブスが4度目の航海のときに発見した島です。ケイマン諸島がなぜイギリス領かについては少し歴史をさかのぼらなければなりません。コロンブスはイタリアのジェノバ生まれですが、最初ポルトガルに遠征の資金援助を申し入れたところ、ポルトガルの国王は無理だろうということで断った。それでスペインの国王に申し出たところ、スペイン国王も最初は断ったのですが最終的には許可したため、そこで資金を得てコロンブスは世界航海を始めて、4度目の航海でケイマン諸島を発見しました。コロンブスが発見したので最初はスペイン領だったのですが、1655年にクロムウェル率いるイギリス海軍がそれを打ち破り、ケイマン諸島をスペインから奪って以降、イギリス領土になったわけです。3つの島からなる諸島ですが、すべて合わせても面積259平方キロメートルで佐渡島の3分の1くらいです。議会もあり民主政体を表面上は取っているのですが、イギリス女王によって任命される総督が最大の権力を持ち内閣を統括しています。公務員も、高位の公務員はその総督が任命し、最終審裁判所もロンドンにある。ですから法制定も含め、事実上ロンドンのコントロールの下にあるわけです。
税の面では、所得や利益、財産、キャピタルゲイン、売り上げ、遺産、相続、すべて非課税です。主な財源は、会社設立の場合などの免許料や、輸入に課される物品税です。小さな島であるケイマン諸島になんと法人6万社が登記されていて、銀行は600行以上、1万にものぼるファンドが登記されているのです。
ケイマン諸島の中心にあるジョージタウンという首都にウグランド・ハウスという名の5階建てのビルがあります。ここはよく新聞にも写真が掲載されますが、このビルになんと1万8,000社が登記されているのです。このビルの中で実際に事務が行われているということではなく、単にポストオフィスボックスになっていて、多くの企業は別の住所を持っているのです。そして郵便は別の住所に届くようになっている。つまりウグランド・ハウスにある1万8,000社は、ほとんどがペーパーカンパニーであるということです。
ジャージー島というイギリスとフランスの間にある小さな島は、イギリス系のタックスヘイブンです。ジャージー島の国家元首はイギリス女王。王室属領ですから、イギリス女王に任命された副総督が女王の任務を代行し、軍隊の総司令官としての役割も担っています。そして代官および副代官がイギリス女王によって任命され、代官は政府を代表するので、代官が普通の国の総理大臣に当たります。そして、なんとこの代官が議会の議長と王立裁判所の裁判長を兼ねているのです。加えて、法律はすべてロンドンの枢密院で承認を受けなければならないことになっています。島内には70の銀行があり、GDPの6割は金融業によるものです。所得税の税率は一律20%ですが、ジャージー島以外での収益には税金はかかりません。
イギリス系のタックスヘイブンの中心部がシティです。シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションというのが正式な名前でロンドン中心部にある1区域です。
先日、タックスヘイブンに反対する市民グループがシティウォークを計画しました。タックスヘイブンに反対するために、シティの重要なところを回ることによって、タックスヘイブンの中心であるシティがどういうものであるかを学ぼうという行動を起こしたのです。
シティは、テムズ川の北、ロンドン塔の西にある半円形の形をした約2キロ平方メートルの狭い地域にあります。市長はロード・メイヤーといい、いわゆるロンドンの市長とは別に、シティの市長として選ばれています。市長の公邸はマンションハウスといい、イングランド銀行の真向かいにあります。市庁舎はギルドホールと言うのですが、これは歴史を表しています。シティのもともとの歴史を調べてみると、1000年以上前に同業者(ギルド)が集まって同業者組合をつくり、自治都市として発展してきたという歴史があります。自治都市ですから国王の指示には従わないという自立性を持っていたわけです。国王も戦費調達源としてシティには頭が上がりませんでした。国債を発行した時には買ってもらわなければいけなかったのですね。今でも王室債権徴収官というのがいて、シティの代表として議会にも自由に出入りできる特別の権限を持っているのです。そしてシティは議会より前から存在しているので、法には従わないという伝統があるというのです。イギリスの議会はだいたい18世紀頃から存在していますが、それより前にあるシティは議会が作った法律には従わないという暗黙の伝統がある。だからシティは「国家の中の国家」であるとも言われています。大ロンドン(ロンドン市)には、このシティを含む特別区が全体で31ありますが、その中でもシティは特別な地位にあるのです。それは大ロンドンの中にシティのロード・メイヤーがいるということからも明らかですね。ちなみに、シティの統治機関である市民議会の投票権は、9,000人の居住者一人ひとりに加え、企業にも3万2,000票が割り当てられています。住民よりも企業の方が投票数が多いという選挙制度です。そうした特殊なところがタックスヘイブンの中心になっているということです。
――タックスヘイブンにどれくらいの資産が隠されているのでしょうか?
昨年、タックス・ジャスティス・ネットワークというイギリスの代表的な市民運動団体が試算したものによると、タックスヘイブン全体で最低21兆ドル、最高32兆ドルの試算が隠されているということです。これをイギリスの新聞「ガーディアン」が報道し、タックスヘイブンに隠された資産としてこの数字が一般的によく使われています。
では、これだけの資産でどれだけの税収が失われているかというと、たとえば最低ラインの21兆ドルの場合、金利を少なめに見積もって3%だとし、それに課税される場合の30%税率を仮にかけた場合でも、1,890億ドルの税収が本来得られたはず、ということになります。日本円にすれば約19兆円ですね。これをマックスの32兆ドルで計算すると2,880億ドル、30兆円近くになります。これは日本の税収の半分以上です。それくらい失われているということです。しかし、これは個人資産だけの数字ですから、企業資産も含めれば実際にはもっと多くなります。
同じくタックス・ジャスティス・ネットワークが発表した資料のひとつに、タックスヘイブンに資産を隠すに当たって、メガバンクがどれだけ中心的な役割を果たしているかを調べたものがあります。これによると、メガバンクのトップ50の合計で12兆ドルをタックスヘイブンに隠している。先ほどの21兆ドルの半分くらいはメガバンクが関わっているということです。たとえばその中でも最も残高の大きいUBSはスイスのプライベートバンクです。その他クレディスイス、イギリス大手のHSBC、ドイツ銀行などそうそうたるメガバンクがタックスヘイブンに資産を隠すことに関わっていることが分かっています。
――いまタックスヘイブンが注目されているのはなぜでしょうか?
それは、各国とも財政が厳しくなっているからです。歳出がどんどん増え、削減しても増えていくのに対し、歳入が追いついていかない。▼図表2は先進主要国の歳出・歳入の対GDP比の推移です。たとえばOECDの平均の統計で一番新しい2013年の数字を見ると、GDPに対する歳出が41%を超えているのに対して歳入の方は37%、つまり歳入がかなり不足している状況です。これはどこの国でも同じです。日本は相当な赤字ですが、他の国も皆そういう状況になっていて、財政が悪くなっている。特にリーマンショック以降、どんどん財政支出が膨らみ、財政状況はどの国も深刻です。
しかも、税収の内訳を見ると、所得税の総税収に占める割合は70〜80年代には30%台であったのが、その後20%台となり、しだいに減る傾向にあります。法人税は各国とも税率引き下げ競争によって税率は引き下げられる傾向にありますが、税収は一定比率を保っているということも特徴のひとつです。そこで問題なのは、不足した部分を補うために、ヨーロッパでいえば付加価値税、日本でいえば消費税に当たるものですが、これがずっと増え続け、税収の20%以上を占めるに至っているということです。それは今や法人税の税収の2倍以上という状況です。
間接税の増税も限界があり、各国でも反対が強まる状況のもとで、各国とも大企業や大金持の課税の抜け穴を封じよという国民の声に背を向けることはできなくなっているのでしょう。
「日本の大企業・富裕層はタックスヘイブンで世界第2位の巨額な税逃れ、庶民には消費税増税と社会保障削減」の続きとなる、私が企画・編集した政治経済研究所理事・合田寛さんへのインタビューの後半部分です。
――多国籍企業はどういう形でタックスヘイブンを利用し「税逃れ」をしているのでしょうか?
先ほどもアップル社のことなどを話しましたが、ひとつは知的財産権の利用です。特許権や商標権などをタックスヘイブンの子会社に移すことによって、過大なロイヤリティ支払いの形で利益をタックスヘイブンに流し込む。最近の企業は知的財産権の価値が高まっていますから、それによってかなりの利益を移転することが可能になるのです。
もうひとつの方法は、移転価格操作です。これは、価格操作によって利益をタックスヘイブンに帳簿上移すということです。たとえば原材料をタックスヘイブン子会社に安値で販売し、高税率の国にある子会社がそれを高値で買うことによって、高税率国における利益を圧縮する。すなわちタックスヘイブン子会社が利益をたくさん出せるような価格操作をするわけです。しかもこれは帳簿上の見せかけで行う。この手法もかなり使われています。
3つめは各国の税制の違いや二国間条約の抜け穴を利用する課税回避です。これは少し難しい話になりますが、企業が海外で活動するようになると、海外での利益をどの国が課税するかが問題になります。場合によっては同じ利益が海外でも本国でも課税される二重課税のおそれもでてきます。これを防止するために、これまで二国間で租税条約を結ぶことによる対応が行われてきました。租税条約はOECDが指導してモデル条約をつくり、現在では各国で租税条約が3,000近く結ばれていると言われています。しかし各国で租税の考え方が違いますので、抜け穴がいろいろ出て来るのです。そこを狙って課税を逃れることを「条約あさり」と呼んでいます。本来は二重課税を排除するという名目で租税条約は結ばれるわけですが、その抜け穴を狙って、結果的には二重課税どころか、どこからも課税されない「二重非課税」という状況を作り出すことができることが最近のアップル社の事例で明らかになりました。
これをやや詳しく説明しましょう。国際課税の課税原則には大きく言って「居住地国課税」と「源泉地国課税」の2つがあります。
「居住地国課税」の原則は、政府がその国にある企業や居住民に対して課税すると同時に、居住民が他の国であげた利益にも課税するというものです。その国における所得だけではなく他の国であげた利益も含め、また非居住者もその国で利益をあげた場合は課税しましょうということです。これは属人主義といい、人や企業に注目して課税する考え方です。多くの国はこの「居住地国課税原則」を取っています。
それに対して「源泉地国課税」の原則は、所得が生まれたところが課税するという考え方です。これは居住者であれ非居住者であれ、国内所得にのみ課税するという属地主義です。
そうした2つの考え方があり、「居住地国課税」を採用する国が多いもののすべての国が同じではないので、課税原則の違いが各国間で生じているわけです。
さらに居住者の定義も難しく、何をもって居住者とするかも国によって違います。日本では、個人の場合、国内法では「国内に住所を有する者」となっていますが、住民票が日本にあっても税逃れのために海外で1年の半分以上過ごしている人もいますから、難しいところです。法人の場合は「本社所在地主義」ということで、本社があるところが居住地になっています。しかしこれには「管理・支配地主義」という別の考え方もあります。たとえばアイルランドの場合、その国で管理・支配していなければその国の居住者とは認めない、従って課税しないということです。アップル社の場合はこうです。アメリカはいわゆる居住地主義なので、アップル社のアイルランド子会社はアイルランドで設立されているのでアメリカは課税できないのです。一方でアイルランドでは、アイルランド子会社はアメリカで管理しているから課税できない。そのためアップル社はアメリカからもアイルランドからも課税されないという「二重非課税」になっていたのです。
他にもいろいろな税逃れの手法があるのですが、あまりに複雑になるのでこの辺で止めておきたいと思います。
――こうしたタックスヘイブンによって、どんな問題が起きているのでしょうか?
タックスヘイブンを利用するのは、巨額のお金を持っている超富裕層と巨大な多国籍企業ですが、その結果、富が極端に集中し、格差の拡大をますます大きくする原因を作り出しています。なかでもアメリカが顕著です。1980年代のレーガン政権は累進税を緩和する税制改革を行いましたが、その頃から急激に格差が広がりました。
▼図表3はトップ1%が全体の所得の何%を占めているかを見たグラフです。これによると、トップ1%の所得がアメリカの所得全体の20%近くに達しています。しかもその割合は急激に増えています。これはアメリカだけでなく、イギリスも同じようなカーブで追っています。日本はそうしたことはないと思われてきましたが、やはり近年、トップ1%の所得割合が高まって、今では10%近くに達している状況です。
人数や資産の面からも見てみましょう。▼図表4は、資産100万ドル以上のいわゆる超富裕者、日本でいえば億万長者がどれだけいるかを見たグラフです。2012年で億万長者の人数が世界で1,200万人。この5年で860万人から1,200万人へと全体として増えています。その資産の額も2008年の32.8兆ドルから2012年の46.2兆ドルへと増えています。先ほどタックスヘイブンに隠された資産が32兆ドルという数字を紹介しましたが、それはこの一部だと言えます。
▼図表5は国別に見た超富裕者の人数です。アメリカの343万人に次いで日本は190万人と世界で2番目に超富裕者が多いのです。こうした超富裕者がタックスヘイブンを利用することで、さらにリッチになることができる状況となっているのです。
また、タックスヘイブンは、途上国からの富を流出させるルートになっています。
「途上国は、資金の不法流出で2010年に8,590億ドルを失った」――これはアメリカのGrobal Financial Integrityという団体が公表した数字です。しかもその大半はタックスヘイブンを利用しているというのです。
この10年間で見ると、途上国は不法流出によって5.86兆ドルを失っています。なかでもアフリカからの流出は急激に増えており、2010年には前年比で24%も増えています。国別に見ると中国やメキシコなどの国が上位を占めています。原因別に見れば、移転価格によるものが多くなっています。犯罪や賄賂も多いのですが、やはり一番多いのは移転価格だということです。具体例は後で紹介したいと思います。
ここで注目すべきなのは、途上国が1年間に失った8,590億ドルは、先進国から途上国に対するODA(政府開発援助)より何倍も多いという事実です。最近のODAは1,250億ドルくらいですので、その何倍ものお金が失われている。そしてこれは先進国の多国籍企業がタックスヘイブンを利用して、途上国から富を奪っているということなのです。
特にアフリカからの流出が多いわけですが、1980年から2009年までの10年間で5,970億ドルから1.4兆ドルの不法資金の流出がありました。これはこの30年間のアフリカのGDPにほぼ等しい額なのです。つまりアフリカにおいて30年間で作り出したものに等しい資金がタックスヘイブンによって奪われてしまっているということです。最も失っている国はナイジェリア、リビア、南アフリカ、アルジェリア、アンゴラなど資源のある国です。ですから、こうした流出がなかったとしたら、この10年間、アフリカは純債権国であったことになるわけです。
問題は対外資産は一部の富裕層によって握られ、負債は国の負債としてアフリカの庶民に背負わされているということです。
ガーナのビール会社を例にあげましょう。ビール業界は巨大な会社が世界市場の大半を握っています。日本でもビール会社はキリンやアサヒなど数社で市場を握っていますね。世界で見ると4社くらいがビール市場のほとんどを握っています。トップはアンハイザー・ブッシュという会社で、これはハイネケンの商標で有名です。世界2位がSABミラー社です。ガーナにはアクラ醸造社という、もともとアフリカのビール会社があるのですが、今では多国籍企業であるSABミラー社の子会社になっています。親会社であるSABミラー社は、世界67カ国に465の子会社を持っている多国籍企業です。アフリカには醸造とボトリングの64社を持っていますが、それより多い65社のタックスヘイブン子会社を持っています。アクラ醸造社が2007年から2010年に所得税を納税したのは1年だけで、ほとんど無税になっています。ガーナという国は貧困国で、税収は国民所得の22%ありますが、まだまだ財源が不足しています。5歳未満の子どもの死亡率はイギリスの13倍で、人口の3分の1はマラリアにかかり、学校不足で教育もままならない非常に貧困な国なのです。ですから財源がいくらあっても足りない国であるにも関わらず、ガーナ第2のビール会社がほとんど税金を納めていないという状況です。
SABミラー社はどのように税金を逃れているのかというと、ブランドをオランダの子会社に移して、オランダにロイヤリティを支払うわけです。オランダはロイヤリティに課税しないことになっていますので、課税は逃れられる。またスイスにも子会社を持っていて、そこに経営負担金という名目で支払いを行う。スイスの子会社から経営されているという理由で、お金を流出させているのです。商品はアフリカにあるモーリシャス島の子会社から仕入れる形にしています。このモーリシャス島がタックスヘイブンになっていて、そこに利益を落とす。また、モーリシャス子会社から必要のない借金をする。それも過大な借金です。借金をすれば金利を払わなければいけないので、金利という形で資金を流出させることができるのです。そうしたさまざまな形でタックスヘイブンに利益を集めて、そのお金を株主配当としてイギリスに送るという構造です。
その結果、アクションエイドという市民団体の調査によると、2007年には利益よりも3倍ほど多いお金をタックスヘイブンに流していますし、2009年と2010年には利益はマイナスなのに、タックスヘイブンに巨額のお金を流しています。
一方、ガーナ政府の歳入の内訳は、法人税が歳入全体のわずか7%しか入っていない。これは大企業がタックスヘイブンに逃げてしまった結果ですね。一方で、付加価値税が17%を占め国民を苦しめており、それでもまだ不足するので加えて外国からの借金に依存せざるを得なくなっているのです。本来ならば、SABミラーの納税があれば、国の財政も豊かになり、貧困対策の予算も組めるわけですが、タックスヘイブンによってそれができないでいるということです。
アフリカからタックスヘイブンにお金が流れる主なルートとしてロイヤリティの支払いと経営負担金の支払いがあります。アフリカとインド全体を含めて、ロイヤリティの支払いが年間4,280万ポンド、経営負担金は4,700万ポンドあり、それらによって失われた税収はあわせて年間約2,000万ポンド(約30兆円)に達しています。
タックスヘイブンの弊害をいくつか上げましたが、もうひとつは犯罪の温床になっているという問題です。グローバル・フィナンシャル・インテグリティー(GFI)の調査によれば、犯罪などによる不正な取引による途上国からの流出は年間6,500億ドルにのぼっています。なかでも多いのはドラッグや偽造で、偽造についてはお金の偽造もありますがブランド物の偽造が金額としては大きくなっています。ドラッグの場合はケシの栽培もありますから、現地労働者にも一定のメリットはないわけではないけれど、ほとんどのお金はタックスヘイブンを通じて犯罪シンジケートの懐に入っています。それでも、貧困国にとってはわずかな収入であってもドラッグに頼らざるを得ない側面が同時にあって、状況は複雑に入り組んでしまっているわけです。たとえばコカインの場合、コカイン栽培農家の取り分は末端価格のわずか2%程度でしかないのです。
犯罪による途上国からの流出の年間6,500億ドルの中で最も多いドラッグが3,200億ドルで、続いて偽造が2,500億ドル、人身売買が316億ドルとなっていて、これも闇金としてタックスヘイブンに流れ込みます。また臓器販売などもタックスヘイブンを通じて行われているのです。
マネーロンダリングについてはIMFによる調査があります。それによれば、マネーロンダリングの額は毎年2.17兆ドルから3.61兆ドルにのぼり、世界のGDPの3%から5%も占めています。犯罪による資金というのは裏金です。裏金を持っていても表に出さなければ使うことができません。タックスヘイブンでは裏金の出所や持ち主などが不明でも銀行に預けることができることを利用して、裏金を表金にするマネーロンダリングを行うわけです。
昨年7月に「フィナンシャルタイムズ」が、世界最大規模のイギリスの銀行であるHSBCが麻薬取引のマネーロンダリングに長年かかわっていた事実を報道しました。HSBCはケイマン諸島に6万もの勘定を持っていて犯罪資金をタックスヘイブンを利用して表金にしていたわけです。
タックスヘイブンは、金融危機の原因を作り出しているという点も大きな問題です。
タックスヘイブンの「無税・無規制・秘密性」という3つの特徴は犯罪の舞台を提供すると同時に、いわゆる投機マネーにとっても最適の舞台になるわけです。銀行は金融規制を受けているために、表向き無制限な投機活動はできないのですが、タックスヘイブンでは、子会社やファンドを使うことによって、銀行の別働隊として働かせることができるのです。いわゆる「影の銀行」の活躍舞台を提供しているわけです。
また、規制の緩いタックスヘイブンでは投機的な金融商品を開発することが可能です。サブプライムローンなどから作られた証券化商品などの多くは、本国では規制があって開発できないので規制の緩いタックスヘイブンで開発されていました。このようなことが金融危機を作り出した大きな原因となっているのです。
――こうしたさまざまな問題を引き起こしているタックスヘイブンを規制する動きはあるのでしょうか?
これまでもタックスヘイブンがまったく野放しだったわけではなく、いろいろな取り組みはありました。それを簡単に見てみますと、ひとつの大きなきっかけは、1998年にOECDが「有害な税の競争」という報告書を出したことです。タックスヘイブンのみならず、OECD加盟国の優遇税制、いわゆる法人税の引き下げ競争など有害な税の競争を規制していこうというのがひとつのきっかけとなり、タックスヘイブン規制の動きが出てきました。その時の考え方は、タックスヘイブンのいわゆるブラックリストを発表して、それに載せることによってタックスヘイブンを減らせるのではないかというものでした。しかし実際には現状は変わらず1998年以降もタックスヘイブンは増えているので、効果はほとんどなかったということが言えます。
その後、再びタックスヘイブンに対する規制の動きが出てきたのが、リーマンショックの時です。金融危機の温床になったという認識が広まって、金融危機直後に行われたG20でタックスヘイブンの規制が話し合われました。その際もブラックリスト方式が取られたので目立った効果はありませんでした。そして、昨年あたりからまたタックスヘイブン規制の声が高まり、今年6月のG8サミットで、それまでに比べてかなり前向きな宣言が発表されました。その宣言には、「国家は、法人が租税を回避するために国境を越えて利益を移転することを許容するルールを変更し、また多国籍企業は、どの租税をどこで納めるのかについて税務当局に報告すべきである。法人の真の所有者を把握し、税務当局及び法執行当局は、この情報を容易に得ることができるべきである」とあります。これは北アイルランドのロック・アーンで宣言されたので、「ロック・アーン宣言」と呼ばれています。タックスヘイブンに反対する市民運動を反映し、国際的な世論を受けてこうした宣言になったものです。
そして、その宣言を受けてOECDがアクションプラン「税源浸食と利益移転に関する行動計画」を作成しました。これは、多国籍企業による利益移転が最も問題だとはっきり認識したという意味で非常に大きなことだと思います。この中で15項目の行動を呼びかけ、ようやく本丸に向かった対策が打ち出されるようになったと言えるでしょう。
その後、9月にロシアのサンクトペテルブルグで開かれたG20サミットでも、同様のことが確認されています。
G8の「ロック・アーン宣言」で重要なのは、次の4つです。(※カギカッコ内が宣言)
(1)「各国の課税当局は脱税の問題とたたかうために、情報を自動的に共有すべきである」
今も情報交換は断片的にはやられていますが、個々にやられたのでは意味がなく、情報交換が常時、自動的に行われないと、情報があるかどうかも分からないわけです。個別に情報を要求してその都度答えるという現状では、情報を求めた場合にそれを提示するだけですが、それでは何か問題があれば情報を求めるけれど、問題があるかどうかは分からない。やはり自動的に情報を交換することが大事なので、それに向けての一歩が踏み出されている点で、この項目は重要だと思います。
(2)「各国は租税を回避するために利益を国境の外に移すことができるルールを変更すべきである。多国籍企業はどの税をどこで納めるかについて、税当局に報告すべきである」
これも大事なことで、多国籍企業が税をタックスヘイブンに意図的に流していることが問題だという認識に基づいています。要するにそれを明らかにすべきである、ルールをつくるべきであると明示していることが大事です。
(3)「法人は真の所有者を把握し、課税当局はその情報を容易に入手できなければならない」
これも大事なことで、ペーパーカンパニーや匿名者をなくしていこうということを打ち出しています。
(4)「途上国は自らに帰属する租税を徴収するために必要な情報と能力を持つべきであり、他国はこれらの国々を支援する責務がある」
これらの点は、もちろん不十分なところもありますが、やはり一歩を踏み出したということが重要だと私は理解しています。
一昨年、オキュパイ運動がアメリカでありました。このオキュパイ運動は「ウォール街を占拠せよ」という運動で、アメリカの経済的・社会的・政治的な力の頂点にある1%の超富裕者および支配者が、その他の大多数である99%の庶民の犠牲の上に成り立っていて、その犠牲の上で裕福になり、既得権力を維持していることに対する怒りの運動でした。まさにタックスヘイブンはその象徴です。なぜならタックスヘイブンの恩恵を受けているのは一握りの多国籍企業と世界の超富裕者です。彼らはそれによってますます裕福になり、世界の支配をますます強めているのです。それは、それ以外の圧倒的多数の勤労者・国民生活の困窮、中小企業の経営困難、途上国の貧困といったものの犠牲の上に成り立っています。その構造を再生産しているのです。まさにタックスヘイブンそのものはオキュパイ運動で問題になった構造そのものであると言えると思います。
国連も途上国の問題に取り組んでいますが、そのきっかけは2000年の国連総会で採択された国連ミレニアム宣言でした。この宣言は「今日我々が直面する主たる課題は、グローバリゼーションが世界の全ての人々にとり前向きの力となることを確保することである。というのも、グローバリゼーションは大きな機会を提供する一方、現時点ではその恩恵は極めて不均等に配分され、そのコストは不均等に配分されている」とうたっています。この言葉はとても重要です。グローバリゼーションはそのまま放置すれば恩恵もコストも不均等に配分されるというのです。189カ国が参加する国連で採択されましたが、それはちょうど世紀が変わる2000年のことでした。
このとき国連は「グローバリゼーションの恩恵を、すべての人に均等に配分するにはどうしたらよいか」という問題を議論し、ミレニアム開発目標を掲げました。2015年をめざして――この目標年次は再来年に迫りましたが、8つの目標が掲げられました。たとえば、「1日1ドル未満で生活する人口比率を半減させる」「すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする」「5歳未満児の死亡率(乳幼児死亡率)を3分の2減少させる」など、特に途上国の貧困問題の解決に向けて、具体的な数値目標を掲げてやろうと決めたわけです。しかし現実には、あと2年を残すばかりですが、この目標には全然届いていません。
こうした目標を達成するためには、第1にお金が必要です。そのためにこれまでにも資金調達の方法がいろいろな国際会議で検討されてきました。それは革新的資金調達と呼ばれています。その一つとして国際連帯税というものがあげられていますが、その一つに金融取引税があります。そして2004年の専門家グループでは、タックスヘイブンの規制も財源の一つとしてあげられました。2007年にもタックスヘイブンを中心とする提言が盛り込まれています。
しかし、タックスヘイブンについては全体としてそれを無くすことは難しいということで、運動はいろいろ取り組まれてきましたが、実現は難しいのが現状です。金融取引税の方はようやくEUなどで導入することが決まりました。あるいは航空券連帯税(途上国の医薬品に使われる)もフランス、韓国などいくつかの国で実現しています。そうした形で革新的資金調達は実現する動きになってきていますが、タックスヘイブンの方は、いろんな報告書で提言されてはいますが、なかなか難しい問題があって実現には至っていません。そうした中で最近、日本で国際連帯税フォーラムが設立され、タックスヘイブンの研究会が去年から開かれ始めました。こうして日本でもタックスヘイブンに対して取り組もうという動きが出てきています。
この9月に開かれた国連総会でもポスト2015が議論されましたが、結論は来年の総会にもち越されました。ポスト2015というのはミレニアム目標の目標期限である2015年以降、どのような目標を立てるかという問題です。途上国の貧困や開発の目標を達成しようとするのであれば、それを阻害している障害をとり除くことが第一です。その点からみてタックスヘイブン対策は、ポスト2015の重要課題として位置づけられる必要があります。国連では来年の総会に向けて民間の意見を求めているので、私たちもポスト2015の課題として、タックスヘイブンを正面から取り上げることを求めていく必要があります。
国連ミレニアム宣言の「グローバリゼーションは、恩恵は極めて不均等に配分され、そのコストは不均等に配分されている」という指摘は大変重要だと思います。この不均等配分をどうするかという問題は、解決を要する重要な問題として私たちにつきつけられています。ところがタックスヘイブンは、そのグローバリゼーションによる不均等配分のメカニズムを一層増幅する役割を果たしているのです。グローバリゼーションの果実を世界の人々が等しく享受できる仕組みが必要なのです。
グローバルタックスということがいろいろなところで言われていますが、グローバルタックスの課題もやはりグローバリゼーションの果実を世界の人々が等しく享受できる税制というところに焦点が当てられなければいけません。いまのタックスシステムは、グローバリゼーションが進展する中で大変遅れている分野の一つです。グローバリゼーションのスピードに追い越されてしまっているのです。いまのタックスシステムが時代遅れだからタックスヘイブンにきちんと対応できないのです。ですので、課題としては金融取引税など革新的資金調達の検討と実施はもちろん大切なことですが、それ以前の問題として、現行税制の基盤を蝕んでいるタックスヘイブンにメスを入れることが、何にも増して最も重要で不可欠な課題ではないかと私は思っています。
アベノミクスは「世界で一番企業が活動しやすい国」にすれば、大企業が儲かり日本全体も潤うというトリクルダウンの理論で経済政策を一層推し進めようとしています。しかし、これまでタックスヘイブンの現実を見てきたように、大企業が儲ければ儲けるほど大企業の取り分は多く負担は少なくなり、逆に、庶民の取り分は少なく負担は大きくなるという結果がもたらされています。貧困と格差がさらに拡大するだけで、トリクルダウンなどまったくの幻想であることが分かります。
――タックスヘイブンの問題を、国家公務員労働者はどう考えればいいでしょうか?
やはり、税のあり方というのは国の最も基本的な問題であり、何よりも公正さが求められます。
とりわけタックスヘイブンの問題は、第一に、税のあり方の公正さ、税の正義にかかわるものです。税のあり方を公正なものにするということは国家公務員労働者にとっても大事なことではないでしょうか。タックスヘイブンと最も戦闘的にたたかっているイギリスの市民団体であるタックス・ジャスティス・ネットワークも、その名前が示すように税の公正を求めているのです。ですので何よりも税の公正さが大事で、その対極にあるのがタックスヘイブンの存在なのです。
また、国家公務員労働者の人件費も国民本位の公共サービスの提供も財源がなければ厳しくなるわけですから、財源をきちんと確保するためにもタックスヘイブンによる大企業と富裕層の「税逃れ」を正すことがとても大事です。税を公正なものにするためにも、財源を確保するためにも、タックスヘイブンは国家公務員労働者が最も関心を持たなければいけない問題だと思います。
また、タックスヘイブンの存在は、世界規模の「法人税引き下げ競争」や「富裕層課税引き下げ競争」を引き起こし、各国の税収を脅かすものでもあります。そして、その税収減のしわ寄せは消費税増税など勤労者に対する課税となり、国家公務員労働者を含む一般国民が負担せざるを得なくなるという問題でもあります。そうした点からも国家公務員労働者がタックスヘイブンの問題とたたかう先頭に立って欲しいと思います。
――本日は長時間、ありがとうございました。(※2013年9月4日、インタビュー収録)