--------------------

不信任決議や党分裂の最悪の事態こそ回避したものの、「辞意表明」へと追い込まれた菅直人首相。首相としての求心力は放棄したのも同然だ。それにしても「菅降ろし」の風は、なぜ今、急に、これほどの力を得たのか。背後に見え隠れするのは、やはり「原発」の影だ。初の市民運動出身宰相は、この国の禁忌に触れたのではなかったか。 (佐藤圭、小国智宏)

 今回の「不信任案政局」を振り返ると、菅首相が原子力政策の見直しに傾斜するのと呼応するように、自民、公明両党、民主党内の反菅勢力の動きが激化していったことが分かる。

 首相は五月六日、中部電力に浜岡原発(静岡県御前崎氏)の原子炉をいったん停止するよう要請。十八日には、電力会社の発電、送電部門の分離を検討する考えを表明した。

 さらに事故の原因を調べる政府の「事故調査・検証委員会」を二十四日に設置。二十五日には外遊先のパリで、太陽光や風力など自然エネルギーのそう電力に占める割合を二〇二〇年代の早期に20%へと拡大する方針も打ち出した。

 自民党の谷垣禎一総裁も十七日、不信任決議案を提出する意向を表明し、公明党の山口那津男代表も即座に同調した。表向きは「東日本大震災の復旧・復興に向けた二〇一一年度第二次補正予算案の今国会提出を見送った場合」という条件を付けたが、原発をめぐる首相の言動が念頭にあったことは間違いない。

 実際、自民党の石原伸晃幹事長は六月二日、不信任案への賛成討論で「電力の安定供給の見通しもないまま、発送電の分離を検討」「日本の電力の三割が原発によって賄われているのに、科学的検証もないままやみくもに原発を止めた」と攻撃。菅降ろしの最大の理由の一つが原発問題にあることを“告白”した。

 民主党内でも、小沢一郎元代表周辺が五月の大型連休後、不信任案可決に向けた党内の署名集めなど多数派工作をスタートさせた。二十四日には、小沢氏と、菅首相を支持してきた渡部恒三最高顧問が「合同誕生会」を開催。渡部氏は、自民党時代から地元福島で原発を推進してきた人物だ。

 日本経団連の米倉弘昌会長はこの間、首相の足を引っ張り続けた。浜岡停止要請は「思考の過程がブラックボックス」、発送電分離は「(原発事故の)賠償問題に絡んで出てきた議論で動機が不純」、自然エネルギーの拡大には「目的だけが独り歩きする」という具合だ。

 金子勝慶大教授は、福島第一原発の事故について「財界中枢の東電、これにベッタリの経済産業省、長年政権を担当してきた自公という旧態依然とした権力が引き起こした大惨事だ」と指摘する。

 当然、自公両党にも大きな責任があるわけだが、「菅政権の不手際」に問題を矮小(わいしょう)化しようとする意図が見える。

 金子氏は、不信任案政局の背景をこう推測する。「菅首相は人気取りかもしれないが、自公や財界が一番手を突っ込まれたくないところに手を突っ込んだ。自公は事故の責任が自分たちにあることが明らかになってしまうと焦った。それを小沢氏があおったのではないか」

 なるほど自民党と原発の関係は深い。

 一九五四年、当時若手衆院議員だった中曽根康弘元首相が、「原子力の平和利用」をうたい、原子力開発の関連予算を初めて提出、成立させた。保守合同で自民党が誕生した五五年には、原子力基本法が成立。その後の自民党の原発推進政策につながっていった。

 七四年には田中角栄内閣の下、原発などの立地を促す目的で自治体に交付金を支出する電源三法交付金制度がつくられ、全国の僻地(へきち)に原子炉を建設する原動力となる。

 自民党と電力会社の蜜月時代は今も続く。

 自民党の政治団体「国民政治協会」の二〇〇九年分の政治資金収支報告書を見てみると、九電力会社の会長、社員ら役員が個人献金をしている。

 東京電力の勝俣恒久会長と清水正孝社長は、それぞれ三十万円。東北電力の高橋宏明会長は二十万円、海輪誠社長は十五万円。中国電力の福田督会長と山下隆社長はそれぞれ三十八万円を献金している。

 会長、社長以外でも、東京電力では、六人の副社長の全員が十二万〜二十四万円を、九人の常務のうち七人が献金していた。

 九八年から昨年まで自民党参院議員を務めた加納時男氏は元東京電力副社長。党政調副会長などとしてエネルギー政策を担当し、原発推進の旗振り役を努めた。

 民主党の小沢元代表も、東京電力とは縁が深い。

 東京電力の社長、会長を務めた平岩外四氏は、九〇年から九四年まで財界トップの経団連会長。九〇年、当時自民党幹事長だった小沢氏は、日米の草の根交流を目的として「ジョン万次郎の会」を設立したが、この際、平岩氏の大きな支援があったとされる。

 「ジョン万次郎の会」は、財団法人「ジョン万次郎ホイットフィールド記念 国際草の根交流センター」に名を変えたが、今でも小沢氏が会長で、東京電力の勝俣会長は顧問に名を連ねている。「(原発事故は)神様の仕業としか説明できない」などと東京電力擁護の発言をしている与謝野馨経済財政相も、現在は大臣就任のため休職扱いだが、副会長に就いていた。与謝野氏は政界入り前に日本原子力発電の社員だった経緯もある。

 一方、電力会社の労働組合である電力総連は、民主党を支援している。労働組合とはいえ労使一体で、エネルギーの安定供給や地球温暖化対策などを理由に、原発推進を掲げてきた。原発で働いている組合員もいる。

 また電力総連は、連合加盟の有力労組であり、民主党の政策に大きな影響を及ぼしてきた。

 組織内議員も出していて、小林正夫参院議員は東京電力労組の出身。藤原正司参院議員は関西電力労組の出身だ。

 つまり、エネルギー政策の見直しを打ち出した菅首相は、これだけの勢力を敵に回した可能性がある。

 結局、菅首相は「死に体」となり、発送電分離や再生可能エネルギー拡大への道筋は不透明になった。「フクシマ」を招いた原子力政策の問題点もうやむやになってしまうのか。すべてを「菅政権の不手際」で“収束”させるシナリオが進行している。

デスクメモ

 脱原発の道は容易ではない。そんな思いでいるところへ、福島・阿武隈川のヤマメから規制値超えの放射性物質が検出されたニュースが飛び込んできた。三十年来の釣り友だちが「おれの釣りの原点は子ども時代を過ごした阿武隈川だ」と話していたのを思い出した。彼の顔が目に浮かんだ。悔しいな。(充)


-------------------

小沢一郎元代表は、米国の意向を受け、その力を背景に前原誠司首相の実現を目指し政局を動かしている

板垣英憲 プロフィール

◆マスメディアの一部には、菅内閣不信任決議案否決以後、「小沢一郎元代表はもう終わった」と決めつける論評やコメントを報ずるものがある。だが、これは、実に「見当外れ」である。「菅直人首相の退陣表明」から民主・自民党「大連立」に向けて、「政局の地殻」を「変動」させた最大の功労者は、小沢一郎元代表であった。

 衆院議員に当選して42年、権力欲渦巻く政界にいて、政治家心理の裏表はもとより、奥深いところを知り尽くしている小沢一郎元代表である。

 「菅内閣不信任決議案に賛成する」という瀬戸際の政治的駆け引きは、あくまでも菅直人首相から「退陣」という一言を引き出すためのジェスチャーであった。この老獪な心理作戦を行ったからこそ、菅直人首相が「衆院解散・総選挙ブラフ」をかけてきたのである。追い詰められた狼が、牙を抜いて威嚇してくるのによく似ている。

 これを逆手に取って、国民新党の亀井静香代表が「退陣ほのめかしのアドバイス」、これに続いて「鳩山由紀夫前代表によ国る確認事項提示」した。この一連の動きが功を奏して、菅直人首相が「一定のメド」という条件付きながらも「退陣」という言葉を表明せざるを得なかったのである。

 この一瞬、菅直人首相退陣に向けて、政局が大車輪で動き出し、菅直人首相を支えていた側近まで、「ポスト菅」という次期政権の高位高官を求めて、一斉に「猟官運動」に走り出したのである。舌切り雀の物語で言えば、葛籠の箱から化け物が、ドッと出てきているような感じである。ロクな政治力も持っていないのに、地位・ポストだけはやたらと欲しがる輩である。

◆今回の政治劇は、「菅直人首相退陣」と「新政権誕生」という大団円によって、結末を迎えることになるが、すでにそのための筋書きは出来上がっており、いまは、ストーリー通りの展開になっている。そのアウトラインだけを示しておこう。

 @9月上旬に行われる日米首脳会談に向けて、前原誠司前外相を民主党代表に選び、国会で首班指名する。(原子力推進利権を掌握)
 A副総理に谷垣禎一総裁が就任する。
 B復興担当相に小沢一郎元代表が就任する。(復興利権=瓦礫撤去・土木建設利権=を掌握)
 C総務相に国民新党の亀井静香代表就任する。(郵政利権を掌握)
 D国土交通相に仙谷由人副相(代表代行)が就任する。(ダム建設利権を掌握)
 E農林水産相に自民党の野中広務元幹事長が就任する。(農業と畜産利権を掌握)

◆現在、首相候補者として名前の出ている野田佳彦財務相、枝野幸男官房長官、玄葉光一郎戦略担当相らは、みな「当て馬」にすぎない。どんな人事でも、最初に名前を挙げられた者は、潰されることになっている。それは、本命である「前原誠司前外相」を守るためである。その陰で、岡田克也幹事長、安住淳国対委員長ら現執行部は、粛正される運命にある。

◆これらのシナリオを背後で演出しているのが、米国務省の日本担当者や対日工作担当者らである。小沢一郎元代表の強さは、いまや「米国」がバックについていることに依る。この事実を民主党も自民党も、ましてやマスメディアも、まだ正確に把握していない。だから、間違った報道が垂れ流しされているのだ。


http://news.livedoor.com/article/detail/5617882/