中国はどう動くのか
〈 新たに開発された大陸間弾道ロケット「火星(ファソン)15」の発射実験が、成功裏に行われた。「火星15」の兵器体系は、アメリカ本土全域を打撃することができる超大型重量級核弾頭の装着が可能な大陸間弾道ロケットである。
金正恩(キム・ジョンウン)同志は、新型陸間弾道ロケットの成功裏の発射を見守りながら、本日ついに国家の核武力の完成の歴史的大業、ロケット強国の偉業が実現したと、誇り高く宣布された…… 〉
75日間にわたって沈黙を保ってきた北朝鮮が、11月29日、ついにルビコン河を渡ってしまった。
現地時間の同日正午、朝鮮中央テレビに、「重大報道」を専門とする「労力英雄」勲章受章者の李春姫・人民放送員(74歳)が登場。冒頭の内容を高らかに宣布した。
同日の深夜3時18分頃、平安南道平城(ピョンソン)から、日本海へ向けて新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)が発射された。
ミサイルは、通常より高く打ち上げるロフテッド方式で、過去最高の4475qまで上がり、発射から53分後、水平距離950qを飛行して、青森県の西方約250qの日本のEEZ(排他的経済水域)に落下した。通常射程であれば、アメリカ全土をカバーする1万3000qに達する。
この突然の暴挙を受けて、日本やアメリカ、韓国などが一斉に反発した。だが私が最も注目しているのは、中国の動きである。
このコラムでこれまで述べてきたように、10月の第19回共産党大会と11月のトランプ大統領訪中を成功裏に終えた習近平政権は、外交に対して急速に自信を深めている。そんな中、対北朝鮮政策で何らかの「変化」が出てくる可能性があるからだ。具体的に言えば、宥和策から強硬策への転換である。
中国はどう動くのか
北朝鮮がミサイルを発射した翌30日午後3時から、月末定例の中国国防部記者会見が、国防部の軍事提携弁公室で行われた。呉謙・国防部新聞局長(大佐)の会見は、この問題に記者たちの質問が集中。いつになくものものしい雰囲気となった。
――米トランプ政権は、選択を迫られた場合、必ずや北朝鮮の政権を滅亡させるとしているが、中国はどう行動するのか?
呉謙: 「(朝鮮)半島の問題に関しては、北朝鮮の(ミサイル)発射には厳重に反対する。だがわが国の『3つの堅持』(朝鮮半島の非核化、対話と交渉による解決、地域の平和と安定)の政策に変わりはない。また、半島問題の解決において、軍事的手段は選択肢にはならないと、われわれは考えている」
――中国人民解放軍は、いままさに軍事演習「厳寒2017」を行っている。これは北朝鮮(派兵)に向けた演習ではないのか?
呉謙: 「その演習は、年度訓練計画にある定例のもので、特定の国家や目標を想定したものではない」
官僚や軍人というのは、記者会見で、平気でウソをつく。これは万国共通の現象だが、軍事演習「厳寒2017」は、明らかに近未来の朝鮮半島への派兵を想定した訓練と思われるのである。
北京から約600q離れた内モンゴル自治区の「朱日和」に、北部戦区が管理する面積1066?に及ぶアジア最大級の軍事訓練場がある。ここでは2014年以降、習近平主席の命令で、紅軍(人民解放軍)と藍軍(敵軍)に分かれての実践型演習をたびたび行っているが、いままさに行われているのが、「厳寒2017」である。
「厳寒2017」がいつ始まり、いつ終わるのかについて公式の発表はない。ただ、中国中央テレビのチャンネル7(軍事・農業チャンネル)が、11月29日夜7時半からの『軍事新聞』で、「厳寒2017」の演習風景をレポートした。私もその番組を見たが、以下のような内容だった。
〈(記者)内モンゴル自治区のクアルチン草原に来ています。ここは夏になると緑一色の草原となりますが、真冬の現在は、草一本生えていません。ここで現在行われているのが、「厳寒2017」で、極寒の状況下でも、通常と変わらない戦力を保持できるようにすることを目標とした実戦型演習です。
こうして紅軍と藍軍に分かれて、極寒の中で演習が行われていますが、紅軍部隊の斎宝玉営長に聞きました。
「今回の演習は、武器の装備品の精度を上げることが目的だ。やはり通常時とは、だいぶ勝手が違う」
紅軍部隊の楊健火力連隊長にも聞きました。
「このような低温において、戦車などの車輌はうまく起動しない。装備部品が寒さに耐えられないといった多くの問題を抱えていて、こうした寒冷下の実戦においては、それらの解決が必要だ。今回は、様々な方法を駆使して、低温下での装備の使用と方式、保善方法を試しているのだ」
紅軍部隊の薛凱パイロットにも聞きました。
「われわれがいま行っているのは、敵機の後方に回り込んで、寒冷地に降下する訓練だ。その延長として、寒冷地において負傷兵を運び出す訓練も実施している。いずれも低温、暴風の環境下でできるようにならなければいけない」
一方、藍軍部隊の季衛星副参謀長は語ります。
「今回のように実戦形式の戦闘訓練にすることで、互いの短所を、より多く発見できる」
紅軍部隊の盧暁光副旅団長も語ります。
「われわれにはいまだ、個々の部隊同士の協業が万全でないという問題を抱えている。自らの作戦を、完全にコントロールすることができないでいるのだ。そのため、一つの問題を取り上げてはそれを解決していくという方針で、訓練を行っている」〉
今回の「厳寒2017」は、昨冬に引き続いて2回目である。やはり朝鮮半島情勢が緊迫した昨年のこの時期に、零下20度近い極寒の内モンゴル自治区で、初めて実施したのだ。
中国の報道によれば、昨冬は100を超える問題が見つかった。そこで今回の訓練では、氷雪の中でどうやって迅速に戦車を進軍させるかといった27の重点項目をピックアップし、バージョンアップさせているのだという。
演習の映像を見る限り、これはどう見ても、有事に鴨緑江を渡って朝鮮半島に突入していくための訓練である。もし今日突然、朝鮮半島有事になったら、この訓練はそのまま実戦となるに違いない。
実際、演習を行っているのは、北部戦区の精鋭部隊として、今年4月に新たに編成された第78集団軍である。本拠地は黒竜江省ハルビンに置いているが、朝鮮半島有事の際には、真っ先に鴨緑江を渡ると見られる部隊だ。
このように中国は着々と、朝鮮半島有事に備え始めている。これは長年「血盟関係」「血を分けた誼(よしみ)」などと言われてきた中朝の同盟関係を、習近平政権が近未来に、完全に叩き切る意思があることを意味している。
中米が同時に大ナタを振るう
11月のこのコラムで記したように、11月9日に北京で行われた米中首脳会談で、習近平主席はトランプ大統領と、ビッグディールを交わした。それは、2535億ドル(28兆円超)という巨額の契約を交わし、アメリカの対中貿易赤字の大半を解消してあげる代わりに、当分の間、北朝鮮問題を中国に任せてほしいということだった(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53488)。
いま思えば、習近平主席は自らの外交に、絶対の自信を持っていたのだろう。5月に一帯一路国際サミットフォーラムを開いて「ユーラシアの盟主」を誇示し、10月に中国共産党大会を開いて国内基盤を盤石のものとした。そして11月にトランプ大統領を招いて、自らの持論である太平洋二分割論を説いた。
ある中国外交の関係者は、11月中旬の段階で、私に次のように述べた。
「金正恩は、第19回中国共産党大会の開幕時と閉幕時に、2度にわたって習近平総書記宛てに祝電を送ってきた。これをわが国は、『北朝鮮が中国に投降した』とみなした。そこで北朝鮮問題に、本格的に手を突っ込むことにした」
つまり、困窮極まった金正恩政権は、今度こそ中国に靡いてくると判断したわけである。
そこで習近平主席は、ベトナムAPECと公式訪問、ラオスの公式訪問から帰国した直後の11月17日、かつての福建省時代の部下で気心の知れた宋濤・党中央対外連絡部長(共産党の外相に相当)に親書を託し、平壌に派遣した。宋部長は顔といい物腰といい、まさに「ミニ習近平」といった風情である。
トランプ大統領は習近平主席に、「北朝鮮で人質となっている3人のアメリカ人の救出に、第一優先で取り組んでほしい」と依頼していた。そのため、宋濤部長は「3人の解放によってトランプ政権との信頼関係を築き、交渉を行ってはどうか」と、金正恩委員長に直接、進言しようとしたはずだ。
だが平壌で待ち受けていたのは、金正恩委員長でもなければ、金永南最高人民会議常任委員長でもなかった。崔竜海と李洙?という二人の朝鮮労働党副委員長だった。おそらく、二人して対応すれば、後に粛清されることもないだろうということで、揃い踏みとなったのだろう。テレビニュースの映像からも、そんな二人の首脳の緊張した様子が伝わってきた。
その後に起こったことは、中国の著名論客が、11月28日にネット上で暴露した。私が今年、中国のネット論客の中で最も注目した一人である周方舟が、「中国とアメリカが同時に大ナタを振るう:実質的な北朝鮮の核問題はすなわち金正恩の問題を解決することである」と題した論評を、「中米学者シンクタンク」というネット論壇に発表したのである。
非常に興味深い内容なので、以下、全文を訳出する。
「中国外交は、かくして挫折した」
〈 北朝鮮には、唯一の戦略的な大量破壊兵器――核兵器がある。それは、金正恩の手中にある。金正恩は、核をもって核を制す、すなわちそれによってアメリカと均衡し、中国を威嚇することが可能だ。そのため、北朝鮮の核問題を解決することは、とどのつまり金正恩の問題を解決することなのだ。
アメリカは、北朝鮮の核問題を解決する戦略的な大量破壊兵器――北朝鮮の核を徹底的に破壊する実力や、金正恩斬首作戦の決行を含む実力――を持っている。
中国もまた、北朝鮮の核問題を解決する戦略的な大量破壊兵器に類するもの――対北朝鮮の石油供給路を徹底的に切断する能力、北朝鮮の経済を徹底的に崩壊させる能力――を持っている。ただ中国はいまのところ、この大量破壊兵器を最終的に使用するに至っていないだけのことだ。
それは、使用することが諸刃の剣に、すなわち北朝鮮を傷つけると同時に、自らをも傷つけることになるからだ。中国の対北朝鮮政策というのは、力を弄ぶと自分をも傷つけてしまう諸刃の剣になってしまうため、当初から後悔できないものなのだ。
中国はまた、北朝鮮の核問題を解決する本質は、金正恩の問題を解決すること、併せてそれに類する問題を解決することにあると、早くから認識していた。
超強硬な威嚇政治を続ける金正恩は、親中派の張成沢を惨殺し、金正男を国際的な衆人監視のロビーで毒殺した。さらに最近はまた、軍総政治局長の黄炳誓と第一副局長の金元弘をも粛清した。それはおそらく、かなり高い確率で、彼らがささやかな親中派的な素振りを見せたため、つまり中国との関係を緩和すべきだと主張したため、金正恩が激怒し、両幹部がクーデターを起こすとの疑念を抱いたことが原因と思われる。
黄炳誓は北朝鮮でナンバー3のリーダーであり、金元弘は北朝鮮の諜報部門と安全部門を掌握していた最高責任者だ。両幹部ともこれまで、金王朝を強固なものにするため奮闘努力してきた、いわば金正恩の両腕である。そうした彼らを粛清してしまったことは、北朝鮮国内を震撼させたばかりか、その余波はおそらく中国の北朝鮮政策にも影響を及ぼすだろう。
中国はこれまで、金正恩の謀略の問題を解決しようとして、何度も失敗してきた。そのことで金正恩は、中国に対して高度の警戒心を抱いているだけでなく、自己のブレーンたちを結集して、様々な危機を乗り切ってきた。
言うまでもなく、中朝間の橋梁はすでに切れ、両国の敵視関係は根深いものがある。それは中国においては、金正恩を排除しなければ北朝鮮の核危機は解決できないというレベルにまで至っている。
周知のように、中国は北朝鮮に対して、真綿で首を締めるように一歩一歩制裁を強化してきており、最後には早晩、北朝鮮と一戦まみえる状況になるだろう。朝鮮半島を非核化しようという中国の決意は、揺るぎないものがある。あとは、それを解決しようという意志を待つのみなのだ。
最近、中国とアメリカは連続して、北朝鮮に対して大きな動きを見せた。それによって北朝鮮は、すでに隅っこの角まで追い詰められている。
先日、中国の高位の特使が北朝鮮を訪問し、中国の立場について言い渡した。その際、中国の特使は北朝鮮側に冷遇された。北朝鮮側は、核問題に関するいかなる議論を話題にすることも拒絶したばかりか、ナンバー2の崔竜海国務委員会副委員長が象徴的に接見しただけだった。しかも北朝鮮側の接見随行者は極めて少なく、中国側の代表団の規模とは不釣り合いだった。
加えて中国側が堪えかねたのは、金正恩が自動車工場を視察するという口実を設けて、中国の特使との接見を拒否したことだった。中国の特使は4日間、時間を空費したあげく、甲斐なく帰国の途についた。そして中国の特使が北朝鮮を離れた11月20日、金正恩は黄炳誓と金元弘を粛清したのだ。
中国外交は、かくして挫折した。そのため11月22日、中国国際航空は、北京-平壌便の無期限停止を発表した。表向きの理由は「経営不採算」だ。続いて11月24日、中国は鴨緑江にかかる友誼大橋を閉鎖した。中国外交部はこう述べた。
「補修が必要なので10日間、臨時で閉鎖した」
だが、こうも述べている。
「北朝鮮側が橋板の補修が必要だと言っているため、一時的に閉鎖したものだ」
こうした物言いが外部に与える共通認識は、北朝鮮側の責任によって大橋を閉鎖したというものだろう。
鴨緑江に架かるこの鉄橋は、中国の国境沿いの都市・丹東と、北朝鮮側の新義州を結ぶ要衝である。中朝貿易の7割は、この橋を経由している。鴨緑江大橋を閉鎖したということは、石油を除く中朝貿易を徹底的に遮断したことを意味する。これは北朝鮮の対外貿易の生命線を断ったということなのだ。
中国は、こうして北朝鮮との空路と陸路を同時に遮断したが、それによって中朝関係は、さらに一段と悪化した。それはまた、北朝鮮が中国の外交努力を無視していること、そして中国が手を出す時が迫っていることを、全世界に示すことにもなった。
11月20日、中国の外交努力が失敗したことを受けて、アメリカは直ちに北朝鮮に対して大きな一手を打った。即日、トランプ政権は北朝鮮をテロ支援国家に再指定したのだ。リスト上には、すでにイラン、シリア、スーダンがあり、北朝鮮は2度目のブラックリスト入りとなった。
11月21日、アメリカ政府は、13社の北朝鮮と中国の企業に対して経済制裁を科すと緊急発表した。経済制裁を受けた会社には、中国、ロシア、カンボジア、ポーランドに北朝鮮労働者を輸出する会社が含まれている。また6社の船舶会社、及び20隻の船舶も含まれる。中国の企業3社は、北朝鮮と7.5億ドルの貿易を行っており、中でも東源実業株式会社は、北朝鮮に2800万ドルの貨物を輸出してきたが、その中には原子炉関連機器材が含まれている。
以上のような事柄から分かるのは、中国とアメリカは共に、北朝鮮の核問題を解決するため、圧力をかけているということだ。そして中国の北朝鮮に対する圧力の感覚は、ますます緊迫してきている。
(10月の第19回共産党大会で選出された)中国の新たな指導グループ(新たな習近平政権)は、能力も動力も決意もある。極左的な(北朝鮮との)絆意識や、脈を調整して北朝鮮の核危機を解決しようとする老人政治のようなことは、もはや受け入れないのだ。
中国が北朝鮮の核危機を解決する最大の動力は、世界に向けて中国が責任を果たす大国だと示すことにある。中国が北朝鮮の核問題を利用して、地域の大国から世界の大国の仲間入りを果たそうということでは決してない。
中国が最近、北朝鮮に対して行った一連のアクションは、まさに中国がこれまでのように北朝鮮に牽制され、愚弄されて動くという受動的な立場からの転身を表明したものだ。今後、中国は主動的に動き、北朝鮮に圧力を加え、積極的で責任を果たす大国の立場に立って行動していく。中国は堂々たる大国として、近辺の小国である北朝鮮の核危機を解決していく。
いま中国に欠乏しているのは、能力、実力、動力、決心のいずれでもなく、ただ意志のみなのだ。
北朝鮮の核危機を解決するため、中米両国は共に、両国の何代かのリーダーたちが犯した轍を踏んではならない。北朝鮮の核問題の解決に欠乏しているのが意志だということは、金ファミリーが、われわれの意志の欠如を唯一の頼みとして、中米両大国の狭間で刀を弄び、両大国のリーダーを愚弄、嘲弄、蔑視している時代を変えるということに他ならないのである 〉
中国が開戦に踏み切る「5条件」
思えば、「建国の父」毛沢東は、1949年に建国して全権を掌握した翌年、朝鮮戦争に参戦した。
「改革開放の総設計師」ケ小平は、1978年の三中全会で全権を掌握した翌年、ベトナム紛争に打って出た。
いままた第19回共産党大会で全権を掌握したに等しい習近平が来年、新たな朝鮮戦争に参戦することは、十分考えられるのである。
実際、今年に入って習近平主席は再三、人民解放軍部隊を視察し、「わが軍には戦争中と戦争準備中の2つの状態しかない」と発破をかけている。
前出の中国の外交関係者は、次のように述べた。
「仮に中国が近未来に、どこかの国・地域と一戦まみえるとしたら、敵となるのは次の5条件を満たしている国・地域だ。
@中国の近隣諸国である
Aアメリカが敵の加勢をしない
B中国が戦って勝てる敵である
C戦争の大義名分が立つ
D中国人民が敵を嫌悪している」
現在、この5条件を満たしているのは、北朝鮮しかない。
2018年は、米朝開戦が危ぶまれるが、同時に中朝開戦にも留意していかねばならない。