最低最悪のコンビ(C)日刊ゲンダイ
「こんなに勝つとは思わなかった」――衆院選の開票当日、安倍首相は周囲にそう漏らしたそうだ。これって実感なのではないか。
なにしろ、国民はまったく安倍首相を支持していないからだ。安倍首相に今後も総理を「続けて欲しい」が37%なのに対し、「そうは思わない」は47%に達している。自民党が小選挙区で獲得した票も、全有権者の25%に過ぎず、比例区はわずか17%である。
それでも、自民党が281議席と圧勝した理由はハッキリしている。野党が「立憲」「希望」「共産」「無所属」などに分裂し、バラバラに戦ったからだ。1人しか当選できない小選挙区制では、野党が乱立したら絶対に勝てない。1対1の戦いに持ち込まない限り勝ち目はない。逆にいうと、野党が結束して戦っていたら、自公に3分の2の議席を渡すこともなかったはずである。
実際、共同通信の試算によると、もし野党がタッグを組んで戦っていたら62の選挙区で逆転し、比例の獲得議席は変化しなかったと仮定しても、自民党は219議席と単独過半数を割り込んでいたという。過半数を割ったら、安倍首相は即刻、辞任表明に追い込まれていたはずである。政治評論家の本澤二郎氏が言う。
「もともと、民進、自由、社民、共産の野党4党は、解散の直前まで選挙協力をして自公と戦う予定でした。野党が結束したら、いい勝負になることは昨年の参院選で証明されていた。32ある1人区で11勝している。10・22総選挙も、野党がまとまっていたら互角の戦いになったでしょう。選挙協力が成立した新潟は、野党の4勝2敗でした。比例区の得票数も、自民1855万に対し、立憲1108万、希望967万と合計すると自民を上回っている。野党の分裂が自民圧勝をもたらしたのは明らかです」
なぜ、予定通り野党4党で選挙協力をして戦わなかったのか。せっかくのチャンスを潰してしまったのか。つくづく愚かというしかない。
■百も承知で自民党を利した
それだけに、選挙の直前に野党をバラバラにした“A級戦犯”の小池百合子と前原誠司の罪は本当に重い。
2人だって、野党候補が乱立したら自民党を利することは、百も承知だったはずである。なのに、野党第1党だった民進党を解体し、「共産党とは組めない」と野党4党が合意した選挙協力をブチ壊し、その揚げ句、小池知事の「排除発言」によって野党を分断させたのだから度し難い。これでは、自民党に「どうぞ勝ってください」と塩を送ったも同然である。
いったいこの20年間、小池と前原はなにを学んできたのか。小選挙区制が導入されてから20年、バラバラの野党は、自民党にまんまとやられてきた。2009年の総選挙で政権交代が実現したのは、<民主、社民、大地、国民新党>などの野党が選挙協力し、共産党が半数以上の選挙区で候補者を擁立しなかったからである。
「この10年、日本の有権者の色分けは、ほとんど変わっていません。自公支持者が30%、野党支持者が20%、無党派が50%です。野党が選挙で勝利するためには、野党がまとまったうえ、投票率をアップさせて無党派層を動かすしかない。投票率が69%まで上昇した09年がまさにそうでした。今回、最悪だったのは、民進や希望のドタバタによって、“野党はなにをやっているのか”と有権者の失望を招いたことです。無党派が動かず投票率も53%でした。これでは勝てませんよ」(本澤二郎氏=前出)
野党4党の選挙協力が整ったことで、10月22日の総選挙は久しぶりに激戦となり、結果的に有権者の関心が高まり、無党派層が投票所に足を運ぶと期待された。なのに、小池と前原がすべて台無しにしてしまった。
野田氏(右)もスパイなのか?/(C)日刊ゲンダイ
初めから野党を分裂させるつもり |
野党が自滅しているようでは、政権交代など夢のまた夢だ。
どうして、小池と前原は野党を潰すようなことをしたのか。ひょっとして、安倍自民党と裏でつながっていたのではないか。そう疑われても仕方がない。自分たちの行動が自民党を利することは分かっていたはずである。
そもそも前原代表は、本当に小池知事に騙されたのだろうか。民進党丸ごと希望の党に行けると信じていたが騙された、と流布されているが、本当なのか。
実際は、右翼思想の自分とは相いれないリベラル勢力は、最初から排除するつもりだったのではないか。その証拠に、排除発言があった後も「すべて想定内だ」「私の判断は正しかった」と胸を張っていた。「共産党とは組めない」とも繰り返し口にしていた。初めから野党結集を潰そうとしていたとしか思えない。
小池知事にしたって、根っこは自民党である。思想信条は安倍首相と変わらない。野党議員や支持者にはシンパシーのカケラもないに違いない。政治評論家の森田実氏がこう言う。
「前原さんと小池さんに対して、騙されたとか、策に溺れたなどと批判する声がありますが、失敗したどころか、“確信犯”だった可能性があります。少なくても、2人が理想とする政治状況が生まれたことは確かでしょう。2人ともガチガチの“改憲派”です。もし、野党4党の選挙協力が行われていたら、自公は3分の2を失っていた可能性が高いが、野党が分裂したために、自公が3分の2を確保し、ひきつづき改憲発議が可能となっています」
小池百合子と前原誠司は、野党を潰すユダだったのではないか。小池知事は、いざとなったら安倍首相と手を結び、改憲の旗を振る恐れがある。
■裏切り者3人の共通点は「改憲」と「従米軍国」
もう1人、怪しいのが野田佳彦だ。そもそも、政権を奪った民主党が、あのまま大きな塊として残っていたら、野党転落後も自民党と十分、対峙できたはずだ。なのに、小沢グループを民主党から追放してしまった。
その揚げ句、最悪のタイミングで「消費税増税」を公約に掲げて解散したのだから、自殺行為もいいところだ。
野田首相が解散した2012年12月の総選挙は、野党候補が、民主、未来、共産、みんな、社民、維新、大地、国民、新党改革、新党日本……と乱立。自民党は294議席を奪い、政権に復帰している。まさに、自民党に「どうぞ勝って下さい」と権力を譲ったようなものだった。
この国は野党が力を持って大きくなると、アメリカの力が働くのか、それとも政権が裏工作をしかけるのか、安保闘争の頃から野党が分裂している。
小池百合子、前原誠司、野田佳彦の3人の共通点は、「改憲派」であり、「従米軍国主義」だということだ。野党を潰したこの3人は、よくも知事や議員をつづけていられるものだ。
「安倍首相はモリカケ疑惑で追い詰められ、大義なき解散と批判されていただけに、野党4党が予定通りに選挙協力をして戦っていれば、退陣に追い込まれていた可能性が高かった。最悪なのは、自民党を勝たせたために確実に改憲に動いてくることです。早くも日本最大の右翼組織“日本会議”は、蠢動している。小池百合子と前原誠司が野党潰しに動いた裏になにがあったのか、徹底的に検証する必要があります」(森田実氏=前出)
この国では本当の政権交代は起きないのか。絶望的である。